VIENNA DESIGN WEEK 2018に参加しました。1
9/28〜10/7で行われていたウィーンデザインウィークにIKEBANAアーティストとして参加してきました。きっかけはオーストラリア/シドニーでWorkshopを開催すべく春にリサーチに行ったさいのレポートをInstagramに挙げたこと。そのPostを見たウィーン郊外に住む女性アーティストが連絡をくれたのです。
「ウィーンでもワークショップをやってください」。
この手のお話は少なからずいただくものの、心持ちが向かないというか、どうも現実味のなく結局実現しないものが大半ですが、このお誘いには7割方は「行ってみようかな」という姿勢でスタートしました。なんでだろう。ウィーンは中央ヨーロッパの要の都市でハンガリーのブダペスト、チェコのプラハ、スロバキアのブラチスラバは近県に出かけるみたいなものだから各地でWSをやりましょう、なんて言葉も魅力的だったのかしれません。最初はそんな具合で話が進んでいたものが、いつしかデザインウィーク期間中にデザイン/アート関係者にTORUのIKEBANAを見てもらいましょう! とギャラリストとセラミックアーティストをブッキングしてお膳立てをしてくれたのでした。
彼女ルチアが住むのはウィーンから車で1時間ちょっとのスキーリゾートとしても知られるSemmering/セメリング。着いた翌日AMから早速このセメリングの山に入りました。ブッシュを分け入り5分も登れば最初のコニファーの森、遠くの山からはチェーンソーの音が響き渡ります。自分がたどり着いた場所も下枝は切られ、ほどよく間引かれよく管理されている。とはいえ冬は雪に閉ざされるとあって、若木のやれ具合や木々の朽ち方など端々に自然の厳しさ、力強さが垣間見えます。また一日を通じて陽の当たらないこの斜面では、苔むした切り株に次の命が芽吹きはじめ、生命の循環を目の当たりにします。
さらに上へ。針葉樹の森を抜けると白樺やパインがまじる森が広がっています。この斜面を見上げて僕は深く感じ入りました。光が描く青緑の陰影、視界に広がる木々の密度とリズム感。肌に触れる湿度、これに誘われるように沈んだあおとのぼるもえぎの混じり合う大地の香り。枝葉のさざめき。ひたすら五感を心地よく刺激し続ける森。影の現れ方、朽ちていく様。とにもかくにも落ち着く斜面。
その後、日の当たる斜面に出ると夏の名残の花が咲き、枯れ木は打って変わって芯まで乾きグレージュがかっています。太陽と樹々の関わりそんな当たり前を再認識しました。帰りの道すがら再び件の斜面を前に苔むした切り株に名残惜しい眼差しを向けていると、ルチアが「旦那が帰ってきたらまたとりに来よう」なんて電話をかけてくれて。仕事帰りにも関わらずチェーンソーを背負って「TORU、犬の散歩に行こう」なんて言いつついやな顔一つせずに付き合ってくれて、陽が落ち一層冷え込む斜面登って、一緒にベストな切り株探しもしてくれて。なんて素敵なファミリーに巡り会えたのだろうかとひたすら感謝。この時、今回の展示のテーマは決まりました。セメリングの大自然を、この斜面を切り出して、ウィーンに持って行こう。ウィーンの人に見てもらおう、と。
いけばなは土地の表現です。植物は土地の記憶です。
土地に感じた気配を、自分をフィルタとして別の場所に移す行為がいけばなだと考えています。今回はこのセメリングの日陰の斜面を主体として、秋から冬に移ろう景色を、展示期間を通じて表現することとしました。